※ネタバレあり
ずっと気になってはいたのですが『向日葵の咲かない夏』を読み終わった後になぜか、「今読みたい!」という衝動にかられて読みました。
半日もかからず一気に読んだ。
読みながら感じる違和感の正体を早く知りたくて気づいたらどんどんページをめくっていた。
そして、騙されたー!
ずっと稔は雅子の息子で、雅子は稔の母だと思ってたのに!
稔視点で母として語られていたのは雅子ではなく容子だったのか。
雅子視点の息子は信一。
確かに稔は母の雅子はみたいな言い方していないし、雅子も息子の稔はみたいな言い方もしていない。
こっちが勝手に勘違いしたのだけど、なんかずるいよ!
おそらく読んだ人みんなそうだと思うけど、雅子の
「ああ、ああ、何てことなの!あなた!お義母さまに何てことを!」
ってセリフを読んで「は?」となりましたよね?
私はしばらく思考停止した。
…お義母さま???
島木かおるが未遂に終わって母のところへ向かったときに、雅子は今家にいないから安心だけど、それはそれで大丈夫か?まさか妹の愛が?と心配していたら全く違った。
びっくりしすぎて最後の5行の内容を理解するのに少々時間がかかった。
ジツボガモウヨウコ?チョウナンノシンイチ?
え?誰?
「二度読みミステリ」とは納得の謳い文句。
夫、母・雅子、息子・稔、妹・愛の4人家族だと思っていたけど、読み返したら最初にちゃんと夫の実家で義母も一緒に5人で暮らしていると予想できることは書いてあった。
予想はできるけどはっきり“義母”と書いてあったわけではないからその存在を意識しなかったし4人家族だと思い込んでしまった。ずるい。
これ最初から5人家族だと思って読めた方はいるのでしょうか?
いるのだとしたらその方は天才すぎる。
信一が父の異変に気づいて探っていたからその行動の怪しさで雅子は息子を疑うようになってしまうんだね。
雅子の性に対する嫌悪?のようなものとか、家族というよりは自分が作り上げた地味で平穏な暮らしへの執着?みたいなものも異常でそれがより一層不穏な空気を醸し出してた。
これ騙されなかった方はいるのだろうか?
そして雅子は雅子で何かトラウマでもあるのか?
雅子視点で語られる感じから想像した雅子の夫は、家庭に興味がない頼りにならない中肉中背のモラハラ中年オヤジだと勝手に思っていたから、稔と結びつくわけがない!
名前で書いてあるところはいいけど、彼とか彼女、母親、息子っていう言い回しがなんだかはぐらかされてる感があって、スッキリしないというか読みにくいなと思っていたのですが意図されたことだったんですね…。
まんまと惑わされた。
稔は大学生で雅子の息子だと信じて疑わなかったけど、答えを知る前の1回目でもやっぱり違和感はあるにはあった。
的外れかもしれないけれど、学生側が講義を休むことを『一回くらい休講してもかまわない』なんて言い方するかなとか。
15、16くらいの少女から見たら二十歳の大学生もオジサンに見えるものかと思ったけど、オジサンっていうことがかなり強調されてる感じがするなと思ったり。
いくら島木敏子が寂しさから話し相手を求めていたとしても年下の男性にいろいろ話すとは思えなくて、どんなに取り繕っても29歳の女性から見たら二十歳なんて子どもだろうし、敏子は父親のような男性に惹かれるタイプだから稔についていくなんてあんまり想像できないなと思ったけど、話してしまった、ついて行ってしまったっていうのが事実なんだろうなと不思議な気持ちになったり。
しかも大学生なのに出かけるときは4、5万持ち歩いて、いざとなればクレジットカードって…。
贅沢しなければ夫の給料だけで生活できるって言ってたけど、子ども二人大学生で学費もあるのにそんなにお小遣いあげる?バイトしてる感じでもないし甘やかされすぎじゃない?と思ってここが一番違和感だった。
街に出かけるたびにそれなりに出費もあっただろうし、月4,5万以上は確実に使っているのではと思ったけど、大学生だと思っていたから、大学生ではないという発想にはならず。
15、16から見たら二十歳もオジサンか?と疑問に思ったにもかかわらず、中肉中背の三十前後の男が少女とホテルに入っていくところを見たという目撃談も雅子同様、いくら大人びてても二十歳が三十前後には見えないだろうと思ってしまった。
思い込みってすごいね。
大学生だと思ってるのに大学生であることに少し疑問を持って、でもその疑問を大学生なのだからそんなはずはないと結局否定する。
本当に1回目で気づいた方尊敬する。
もう一度読めば稔視点の母が雅子じゃないってことも明らかだった。
雅子は息子に対してかなり慎重になって部屋を調べていたけど、稔視点の母は稔に対して慎重に接している感じはしないし、最近母さんの様子が変だって稔が感じることがあったけど、別に稔のしていることに気づいているとかではなさそうだし。
稔視点の母は稔を『稔さん』と呼んでいたけど、雅子が夫と息子に対して名前で呼びかけるようなことがなかったので気づくのなんて難しいよ。
稔はもちろん母さんを名前で呼んだりしないし。
というか稔視点だと母以外の家族は眼中にないので、雅子の異常性も相まって、母・雅子と息子・稔の歪んだ愛の話かと思った。
まぁ親子の歪んだ愛の話ではあると思うけど相手が違ったね。
雅子から見た息子が怪しすぎて、稔にしては不用心すぎる気がしてたけど稔じゃないなら納得だ。
行動がわかりやすすぎてバレるよ?と変な心配までしてしまった。
一番不思議だったのは、1回目のビデオを見ていたシーンではちゃんと部屋に鍵をかけていたのに、2回目のシーンでは母さんに絶対にバレてはいけないって思ってるはずなのに鍵をかけていなかったところだけど、1回目のシーンは稔と容子で、2回目のシーンは雅子と信一だったんだね。
稔が母に対して辛く当たるイメージがあまりなかったし、女性として見てるのだなと思ってたから、ビデオが見つかりそうになって慌てたとはいえ雅子を怒鳴って突き飛ばすのはあまりにも態度が違うのではと思ったけどあれは稔ではなく信一だったのか。
稔だったらもっとうまくごまかしそう。
信一としては父の撮った残酷なビデオを絶対に母に見つかるわけにはいかないよね。
稔が入れた覚えのないテレビ台にカメラが入っていたとき、あんなに慎重に部屋を調べる雅子がまさか配置を間違えるかなと思ったけど、それも信一だったのか。
雅子が遺体の確認をしたときも息子かと聞かれて何度も頷きながら大泣きしたのは、本当は息子じゃないのに息子を逃がすために嘘をついたのかと思ったけど、まさか本当に息子・信一だったとは…。
とんでもない小説ですね。
これが平凡な中流家庭が孕む病理?
稔にとって父親の存在は希薄どころか憎悪の対象で、おそらく兄弟もおらず母と過ごす時間は多かっただろうし、同級生の母親より若くて美しい実母に性的興奮を覚えるようになったという背景はわかった。
けど雅子が父親の存在の希薄さ故に、過剰に息子の心が歪んでしまうのでは、犯罪者になるのではないかと心配するのはなぜなのだろう?
数年前に起きた幼女連続殺人のせいかと思ったけど、子どものころからセミナーに参加したりして異常に警戒してるし、そこの説明は欲しかったなと思う。
イメージ的に女の子の方が敏感だから母の異常さに結構早く気づいてグレそうとか思っちゃうけどどうなのだろう?
気になるところをざっくり読み返しただけだけど、1回目でモヤモヤしてた部分の答え合わせが出来てスッキリ。
スッキリできないのは雅子が警察に相談しなかったのはなんとなくわかるけど、信一はなぜ警察に行かなかったんだい?
証拠もあったのに。
雅子と同じようなことを考えていたのかな?
病気だから治療して治せばもうこんなことはしないはずだから、捕まえるのではなく治療をしよう、愛があればなんとかなるみたいに思っていたのか?
警察に行っていればすぐに捕まったのではないかと思うし信一も容子もおそらく死なずに済んだのに。
信一が父のことを探りながらどんなことを考えていたのかが知りたい。
そして島木かおる。
この女は嫌いだ。
結局、樋口のことも自分のものにしようとしてる。
たぶんその後二人は関係を持ったと思うし、姉のために犯人を捕まえたかったわけではなく、樋口と一緒にいる理由が欲しかったんでしょ?って感じ。
自分のせいで姉が死んだなんて微塵も思ってないでしょ。
ある意味、登場人物の中で一番気持ち悪いかもしれない。
正直、敏子の樋口に対する行動もちょっと気持ち悪いなと思ってたのですが。
そして樋口もまぁ気持ち悪い。
こういう猟奇的殺人、シリアルキラーが犯人の話って例として実在のシリアルキラーの話を挟むのはあるあるなのでしょうか?
実際にこういう事件を起こした殺人犯がいたから、犯人像として無理な設定ではないですよ的な?
そう考えるとやっぱり事実は小説より…。
ちなみに、かなりエログロだと噂に聞いていたけれど私は全然大丈夫でした。


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