MENU

『死刑にいたる病』櫛木理宇

まんまと…まんまと榛村大和の手のひらで踊らされた。

真犯人を見つけて必ず真実を暴くぞみたいな気持ちで読んでたんだけれども。

根は良い人なんじゃないかと、何人も殺している殺人鬼なのに思ってしまうのが怖い。

自己肯定感が低かったり、現状に満足いかなかったりとか、弱っているとき、悩んでいるときに優しく話を聞いてくれたりしたら、その人を心の拠り所にしてしまうのはよくあることだと思うんですよ。

そういう人の心理を榛村はうまく利用して自分の思い通りにしていく。

これがいわゆるマインドコントロールというやつですか?

生い立ちを調べていろいろな人に話を聞いているうちに、ああじゃなければこうじゃなければ、殺人鬼にはなっていなかったかもとか思うんですけど。

生まれてから死刑になるまでを辿っていくと、人を殺していい理由にはならないのはわかっていても同情してしまうんですよね。

でもそれも榛村の思う壺なわけで。

自分をわかってくれるのはこの人だけのように思えて、特別な存在に気づいたらなってるんですよ。

怖い怖い怖い怖い。

答えは与えずに、選択肢を与えて、でも確実に榛村の求めている答えの方に誘導されてる。

狙った獲物は逃さない、狙われたら逃れられない。

自分で選択したことだから一生消えない罪悪感を持ち続ける。

たくさんの人を拷問して殺したけど、狙った獲物が自分の与えた選択によって死を選ぶのを待つ、そういうゲームも榛村はしているんでしょう。

獲物というよりはおもちゃという感じ。

櫛木さんの本を読んだのはこれが初めてなのですが、こんな怖い話を書く櫛木理宇さんとはどんな人?と作家さんへの興味がめちゃくちゃ湧いてきた。

きっとシリアルキラーが好きなんでしょうね。好きというか興味がある?

気持ちはとてもよく分かる。私もよくYouTubeで昔の事件とかシリアルキラー関連の動画をよく見るから。

どんな事件だったのかというのはもちろんだけど、なぜそんなことをしたのか、犯人はどんな人なのかとか気になるんですよね。

とはいえ、物語の中で実在したシリアルキラーについての説明が多くてちょっと鬱陶しい感じもした。

榛村という人物は当然実在はしないけど、実際の事件やシリアルキラーの説明を挟んであるので実在するんじゃないかという謎のリアリティはあった。

だけど、逆にその説明がないと榛村大和というキャラクターを確立させられなかったってことなのかな。

なんかちょっとズルい笑

でもその説明のおかげで榛村には不思議とリアリティを感じたのだけど、実際にこんな殺人鬼が日本にいたとしたら、さすがに24人も殺す前に捕まえてくれますよね、警察のみなさん。

読んでる時に座間の事件を思い出したのですが、同じ人はいるかな?

あれをニュースで見たときは本当にゾッとしたし、当時そう遠くもない所に住んでいたから怖すぎてしばらくはよく眠れなかった。

ウィキペディアを読んでみたのですが、福島と埼玉それぞれの県で捜索願が出された女子高生2人の携帯電話の最終発信地点が同じで、両県からの捜索要請を受けた神奈川県警察が集団自殺ではないかと範囲を広げて捜索、ただ、事件に巻き込まれたなどの切迫性がなかったため、最寄駅の防犯カメラ映像は調べなかったそう。

逮捕のきっかけは最後の被害者のお兄さんが捜索願を出して、Twitter上で被害者の状況を発信したところ情報提供があったからだそうです。

そう考えると、物語の中ではなぜか、ほぼ全員に捜索願が出されていたのに「自主的に失踪できる年齢」だから事件性なしで大規模な捜索は行われなかったことになってるんですが、なんか無理がありすぎる気がすぎるんだけど、どうなんだろう。

90〜100日間隔で犯行を行なっていたら、1年で3、4人くらいの被害者がいるわけじゃないですか。

被害者の人数が24人だとしたら6〜8年もの間犯行が行われていたことになるけど、おそらく榛村の家からそう遠くない町とか市とかでたくさんのハイティーンの少年少女が失踪してるのではないかと思うので、普通だったらおかしいなってなりそうな気がするんだけど。

でもこの本が発売されたのが2017年で、改題前の『チェイン ドッグ』が発売されたのが2015年、物語の中で西暦に触れられているところはないけれど、雅也が榛村に頼まれて調査しているのが2014〜2015年くらいだとすると榛村が犯行を行なっていたのが2002〜2010年頃になると思うから、Twitterとかはない、まだ普及していないし防犯カメラがどれくらいあるのかわからないけど、北関東のはずれの農村だったら可能になってしまうのだろうか?

捜査の仕方とか知ってるはずもないので、わからない。お手上げ。

逮捕のきっかけの何十人目かの獲物の16歳の少女は根津かおるなのか?

もしそうなら逮捕まで7年かかったことになるし、別の少女なのか?

そこも気になるのだけどわからない。

金山一輝が根津かおるを指さしたのは母似の弟に似ていたから?

過去のことがあるから反射的に弟に似た根津かおるを指さした?

根津かおるはたぶん元獲物の1人だけど、弟に似てるからってそんなに上手く金山一輝が根津かおるを指差すように仕向けられるものなのか?

わからない。

あと、いくら榛村からの頼みとはいえ、弁護士が大学生に事件の資料とか事務所の名前が入った名刺送ったりしないだろうし、こんなにたくさんの人が雅也に会って都合よく喋ってくれるとも思えない。

国立大学に落ちて、仕方なくFラン大学に通って、自分も大して頭は良くないであろうに、周りを低脳と馬鹿にしてる雅也が、榛村に会って優等生だった頃の万能感を取り戻したとしても急に賢くなりすぎじゃない?って気もする。

雅也が変わっていく様を成長と捉えていいのかもよくわからない。

周りを馬鹿にするのは、壁にぶつかってプライドが傷ついたからじゃなくて、優等生だった頃からしてたことだし、自分の状況に関係なく雅也は基本的に人を見下してる感じがするから最後いい感じになってるけど根本的には変わってないんじゃないかな。

自分が人を見下すようになったのは榛村に出会ってからみたいに言ってるけど、雅也はいろんなことを人のせいにしすぎてる気がしてなんかヤダ。

シリアルキラーというものに焦点当てすぎて、その他の部分は気になることが多いけど、物語としては面白いので一気に読みました。

続きというか榛村と加納さんの関係も気になるからその話も書いてほしい。

余談ですが、物語の最後の方で雅也と金山一輝が喫茶店で話をする場面。

5年前のことを話しているのに、金山があの日榛村に会ったのは25年ぶりっていうんですよ。

おかしいですよね!?

金山が被害にあったのは10歳の時だから20年ぶりのはずなのに、25年、25年って。

そこが気になりすぎて、私は最後、別の迷宮に迷い込みました。

ついでにもうひとつ。

雅也の住むアパートの玄関は内開きみたいなのですが、日本では靴を脱ぐので圧倒的に外開きが多いんですよ。

内開きの家がないわけじゃないみたいなのですが、内開きにすると玄関にそれなりのスペースが必要になるから、大学生が住む家賃65,000円のロフト付きワンルームで玄関が内開きってめちゃくちゃ珍しいんじゃない?

海外は内開きが一般的なのですが、櫛木さんは海外で生活してた方なのかな?出身は新潟みたいですが。

以上、「死刑にいたる病」を読んだ感想と気になったところでした。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

読書は好きだけど、年間何百冊も読むタイプではありません。でも好きです。

コメント

コメントする

目次